奈良という歴史ある街で、いま静かに広がっている取り組みがある。
それは、猫を救うだけの活動ではない。
行き場を失った命を守ること。
そして同時に、人の生きがいを生み出すこと。
保護猫活動に「シニア就労」を掛け合わせたこの取り組みは、単なる支援の枠を超え、地域そのものの在り方を変えようとしている。
“優しさ”を、仕組みに変える。
その現場を追った。

1. 地元から始まった、「殺処分させない」という覚悟
活動の出発点は、奈良県大和高田市という地元への強い責任感だった。
「まずは地元から、確実に野良猫問題に向き合いたい」
その思いから、行政に持ち込まれる猫たち、特に赤ちゃん猫や子猫を保健所へ行かせないため、すべて引き上げる決意を固めたという。
殺処分を“減らす”のではない。
“させない”。
この明確なスタンスが、活動の原点にある。
2. 命を救う力を、「生きがい」に変えるという発想
この団体の特徴は、保護猫活動に「シニア就労」という視点を取り入れている点にある。
猫の命を救う力を、地域のシニアの「生きがい」に変える。
それが、この取り組みの核だ。
保護猫活動は、猫を救うだけではない。
人の心を癒やす力も持っている。
一方で、社会との接点が減り、役割を求めている高齢者も少なくない。
この2つを結びつけることで、
・猫には「安心できる居場所」
・人には「必要とされる実感」
を同時に生み出す。
目指しているのは、単なる労働支援ではない。
猫を軸に、多世代が支え合う「地域コミュニティの再生」である。

3. 「正しさ」だけでは伝わらないという現実
活動を続ける中で、大きな学びもあった。
「愛護に偏った考え方は、人には伝わらない」
野良猫問題には、被害に困っている人もいる。
その存在に目を向け、寄り添うことが、人の意識を変える第一歩になると気づいた。
また、「点」で行うTNRでは野良猫は減らない。
この現実を受け、現在は自治会単位でのTNR活動へと移行している。
さらに、重度の症状を抱えた子猫のケアを通じて、医療の重要性も痛感した。
失明寸前の状態から回復し、里親へとつなげることができた経験は、団体の方針に大きな影響を与えている。
「知識と判断が、命を左右する」
その実感から、現在も医師や看護師の協力を得ながら、医療面の強化に取り組んでいる。
4. 「もったいない」を「温もり」へ。輪っ活という選択
奈良の地場産業である靴下。その製造過程で出る端材を活用した取り組みが「輪っ活(わっかつ)」だ。
「もったいない」を「温もり」へ。
本来は廃棄されるはずの素材だが、質は高く柔らかい。
それを猫用ベッドなどに再生することで、
・環境への配慮
・猫にとって快適な居場所
の両立を実現している。
さらに、この取り組みは奈良の靴下産業を支えてきた世代にとっても馴染みやすい。
繊維に触れる細やかな手仕事は、これまでの経験をそのまま活かせるからだ。
地域の産業と人材を循環させながら、猫を守る。
この構造自体が、地域を巻き込む力になっている。

5. 理想だけでは進まない、TNRの現場
TNR活動の現場には、明確な壁がある。
地域ごとの理解の差により、TNR後のリリースを拒まれるケースは少なくない。
その結果、保護の負担は増え続ける。
さらに大きいのが、費用の問題だ。
自治体によって助成金の有無に差があり、支援がない地域では手術費用の負担が活動の停滞につながる。
「誰がその費用を負担するのか」
この問題が解決しない限り、活動は広がりにくい。
制度と現場のギャップが、今も大きな課題として残っている。
6. 「助けられる命」を諦めないという選択
FIP(猫伝染性腹膜炎)の治療は高額である。
治療費は一時期、1匹あたり100万円規模とされていたが、その後30〜40万円程度で対応できるケースも出てきた。
「頑張れば救える命」になったからこそ、より強く向き合うようになった。
その背景には、ミルクボランティアとして、小さな命が何もできずに亡くなっていく現場を見てきた経験がある。
「早く決断できるかどうかで、その子の運命は変わる」
その実感が、今の判断基準になっている。

7. 見た目ではなく、「向き合い方」で選ぶ里親基準
里親選びで見ているのは、見た目ではない。
・生活スタイルに合った猫を選べるか
・その子の背景やストーリーを理解できるか
・医療も含めて責任を持てるか
こうした本質的な部分が重視される。
求められるのは、「癒し」だけを求める姿勢ではない。
命として向き合う覚悟である。
ペットではなく、家族として迎えること。
その意識があるかどうかが、判断の軸になる。
「餌」ではなく「ご飯」と言えるか。
その小さな言葉の違いに、価値観が表れる。
8. 「何かしたい」と思った瞬間が、スタートになる
保護活動は、一部の人のものではない。
むしろ、関心のない人や苦手意識を持つ人にも伝わる形で広げていく必要がある。
そのためには、愛護に偏りすぎないバランスが重要になる。
そして何より大切なのは、「少しでも何かしたい」と思ったときに動くことだ。
特別なスキルは必要ない。
まずは、自分にできることから始めればいい。

9. 支援が、直接「命」に使われるという事実
今回のアパレルコラボによる支援金は、猫たちのために直接使われる。
具体的には、
・保護猫のご飯代
・医療費
・外で暮らす猫たちの手術費用
といった、活動の根幹を支える部分に充てられる。
特に、費用が足りず手術ができないケースにおいて、この支援は命をつなぐ役割を持つ。
10. 小さな命に優しい街は、人にも優しい
目指しているのは、「小さな命に優しい街づくり」。
相手の立場に立つこと。
その積み重ねが、人にも動物にも優しさとして返ってくる。
誰かを大切にすることは、仲間を大切にすることでもある。
そして、この活動にはもう一つの価値がある。
「自分が作ったベッドで猫が眠っている」
その具体的な実感が、シニア世代の方々の明日への活力になっている。
命と人がつながる場所は、確かにここにある。

