放すことがゴールではない。 放鳥’sが見つめる、野生復帰のその先

放すことがゴールではない。 放鳥’sが見つめる、野生復帰のその先

傷ついた鳥を保護し、治療して、再び自然へ帰す。

野生動物の救護と聞くと、多くの人は「放鳥した瞬間」を活動の終着点として思い浮かべるかもしれません。

しかし、放鳥’sが見つめているのは、その先です。

本当に野外で生きていける状態まで回復しているのか。
どの場所で、どの時期に放すべきなのか。
放した後、その個体は生き続け、繁殖に参加できているのか。

救護、治療、リハビリテーション、放鳥後の追跡、そして得られた結果の分析。さらに現在は、野生動物が生きていける環境を維持し、回復させるための保全活動にも取り組んでいます。

今回は、放鳥’sの境さんと吉田さんに、活動の始まりから野鳥救護の難しさ、放鳥後の追跡から得た学び、そして人と野生動物の関係について伺いました。

1:野生復帰まで支える活動を、自分たちの手で
放鳥’sが生まれたきっかけ

ー野生動物の中でも、特に野鳥の保護活動や環境保全を始めるに至った背景を教えてください。

境さん:最初のきっかけは、「大阪野生動物リハビリテーター」という講習制度に参加したことです。

そこで野生動物の治療やリハビリテーションの技術を学び、講習に参加したメンバーたちと一緒に救護活動を始めました。それが放鳥’sの始まりです。

ー鳥を扱う保護団体は、珍しい印象があります。

境さん:放鳥’sという名前ですが、野鳥だけを対象にしているわけではありません。哺乳類などが来れば保護することもあります。

ただ、実際に救護されてくる野生動物の9割以上が鳥類なんです。

鳥は飛べなければ自然の中で生きていけないため、治療後にもリハビリが必要になることが多い。結果的に、野生動物の救護活動をしていると、鳥が中心になっていきました。

ー吉田さんが活動に加わったきっかけも教えてください。

吉田さん:私も野生動物リハビリテーターの講習会に参加したことが始まりです。

その後の勉強会で、境さんが立ち上げた放鳥’sの活動発表を聞き、団体のことを知りました。それをきっかけに、メンバーとして加わりました。


2:救護して終わりではない
治療・リハビリ・追跡・分析を一つの流れに

ー現在は、どのような活動を中心に行われていますか?

境さん:活動の中心は、立ち上げた当初から大きく変わっていません。

救護した個体を治療し、リハビリテーションを行い、放鳥する。そして、可能な場合は放鳥後の行動を追跡し、その結果を分析して、次の救護に生かします。

野生動物を治療している動物病院はありますが、長い距離を飛ぶための訓練や、放鳥後の追跡まで行われることは、当時あまりありませんでした。

治療が終わっただけで、本当に飛べるのか。
長時間飛び続けられるのか。
放した後も生きていけるのか。

追跡をしなければ、分からないことばかりです。

だから、治療後のリハビリ、放鳥後の追跡、その結果を今後の救護に生かすための分析までを、一連の活動として行う必要があると考えました。

追跡を重ねたことで、現在は「この状態の個体なら追跡をしなくても生きていけるだろう」と判断できるケースも増えました。ただ、リハビリ後の評価を重視する姿勢は変わっていません。

ー最近は、環境保全にも取り組まれているのでしょうか?

境さん:救護した個体が生きていけるフィールドを残すことにも、少しずつ力を入れています。

現在は、池などの湖沼環境で、アカミミガメを中心とした外来生物の調査や捕獲に取り組んでいます。

まずは調査対象となる池にどれくらいの個体がいるのかを推定し、駆除を進めることで、その後の生物相や環境がどのように変化するのかを見ていきたいと考えています。

捕獲したアカミミガメについても、ただ処分するのではなく、堆肥化し、その土を地域の自然に植えるための苗木づくりに活用する方法を検討しています。

3:羽先1センチにも神経を使う
保護から放鳥までのプロセス

ー傷ついた鳥を保護してから、自然へ帰すまでの流れを教えてください。

境さん:救護の依頼を受けた後、持ち込まれた個体を受け取る場合もあれば、現地まで捕獲に向かう場合もあります。

滋賀県からの委託事業の一環で、「この場所まで捕獲に行ってほしい」と依頼されることもあります。

捕獲後は治療に入り、治療中のケアを行います。骨折などで飛翔能力が落ちている場合は、飛ぶための訓練を行い、飛翔状態を確認したうえで放鳥します。

その後、必要な個体には発信機などを付けて追跡し、結果を今後の救護へフィードバックします。

追跡を重ねる中で、放鳥する場所や時期が、その後の生存に大きく関わることも分かってきました。

そのため、個人の方や動物病院から受け取る場合でも、私たちが現地で捕獲する場合でも、保護された場所の情報は必ず確認するようにしています。

ー日々のケアで、特に神経を使うことは何でしょうか?

吉田さん:羽の管理ですね。

境さん:鳥は、飛べなければ自然へ帰れません。

治療中に羽を傷めてしまうと、怪我自体が治っても飛翔に影響が残ります。鳥の羽は、種類や部位によっては基本的に年に一度しか生え替わりません。

生え替わりの直前に羽を傷めたのであれば、比較的短期間で新しい羽になります。しかし、生え替わった直後に傷めてしまうと、次の換羽まで長期間飼育しなければならない場合があります。

野生動物を長く飼育すること自体が、その個体にとってリスクになります。

だから、羽先のわずかな傷みにも気を使いながら管理しています。

ー放鳥できるかどうかは、どのように判断するのでしょうか?

境さん:飛んでいる姿を撮影し、スローモーションで左右のバランスを確認します。

一見しっかり飛べているように見えても、映像で見ると左右差が出ていることがあります。

骨折後に関節が固まっていないか、翼を十分な角度まで開けるかといった関節可動域も測定します。

それから、私は飛ぶ時の「音」も重視しています。

翼が正常に風を捉えられていないと、飛ぶ時の音が変わります。見た目だけでなく、映像、関節の動き、羽ばたきの音などを総合して判断しています。


4:助けるために、近づきすぎない
人への慣れを防ぐための工夫

ー野生の鳥を扱ううえで、人に慣れさせないための配慮はどのようにされていますか?

境さん:鳥の種類や年齢によって対応は変わります。

特に猛禽類の雛などは、人を「餌をくれる存在」だと認識しやすいため、人の姿が見える状態で餌を与えないようにしています。

段ボールなどで明るい側と暗い側を作り、人が見えない方から餌を入れたり、布で姿を隠して与えたりします。周囲を暗くし、必要な場所だけを照らして餌を与えることもあります。

一方で、成鳥として保護されたトビやフクロウなどは、人が近くにいる環境に一時的に慣れても、放鳥後に人へ近づいてくるとは限りません。

すべての個体を一律に扱うのではなく、種類や年齢、その個体の状態を見ながら対応しています。

5:放した翌朝、フクロウはカラスに襲われた
失敗から学んだ「放鳥時期」の重要性

ーこれまでの活動の中で、団体として大きな学びになった救護エピソードはありますか?

吉田さん:最初の頃に放鳥したフクロウのことが印象に残っています。

長期間保護されていた若いフクロウで、羽が傷み、なかなか飛べるようにならない個体でした。

境さん:放鳥’sで預かり、羽が生え替わる時期を待つと、きれいな羽が生えて、しっかり飛べるようになりました。

狩りができるかも確認し、放鳥できる状態だと判断しました。

新しい場所に慣れさせてから放す「ソフトリリース」という方法を選び、発信機を付けて夕方に放鳥しました。

夜の間に落ち着いた場所を確認し、翌朝見に行くと、カラスに襲われて亡くなっていました。

吉田さん:冬は餌が少ないのではないかと考えて、暖かくなった春先に放しました。

でも春は、カラスが子育てをしていて、特に敏感になる時期です。カラスはフクロウなどの猛禽類を見つけると、集団で襲うことがあります。

餌のことは考えていましたが、天敵の繁殖期までは十分に考えられていませんでした。

この経験から、カラスの繁殖期を避けて放鳥する必要があると学びました。

境さん:追跡をしていなければ、放鳥した後に何が起きたのか分からなかったと思います。

つらい結果でしたが、原因を分析して次の放鳥方法に生かせたことは、団体にとって非常に大きな経験になりました。


6:放鳥後まで追い、得た知識を共有する
放鳥’sならではの強み

ー他の団体にはない、放鳥’sならではの強みはどこにあると感じていますか?

吉田さん:一般的な鳥の救護個体を、放鳥後まで追跡している民間団体は、あまり多くないと思います。

境さん:追跡を行い、放鳥後の結果をリハビリや放鳥方法の検証に使っていることは、一つの特徴だと思います。

もう一つは、国内外を問わず、必要な情報を持っている方や施設へ積極的に聞きに行くことです。

国内では前例がなくても、海外の専門施設では似た事例を経験していることがあります。そういう場合は、海外の施設へメールで問い合わせ、返事をいただいたところから治療やリハビリの情報を教えてもらいます。

吉田さん:救護に携わる方は横のつながりが乏しく、新しい知見を得たり、相談したりする機会が少ないと伺っています。

境さん:国内から相談を受けた時も、分かることは伝えますし、別の施設や専門家を紹介できる場合はつなぐようにしています。

施設同士のハブのような役割を担うこともあります。知識やつながりを惜しまず共有することは、結果的に自分たちの活動にも返ってくると思っています。

7:鳥が減り、救護できる人も減っている
野鳥を取り巻く二つの危機

ー活動を続ける中で、野鳥たちを取り巻く環境の変化をどのように感じていますか?

吉田さん:野鳥は全般的に減っていると感じます。

カラスなど一部を除いて、特に渡りをする鳥は危機的に減っている印象があります。

ただ、救護活動をしていて強く感じるのは、鳥の減少だけでなく、行政による野生動物救護事業の縮小です。

境さん:私たちが団体を立ち上げた頃には、野生動物救護事業はすでに縮小傾向にありました。

放鳥後に生きているか分からず、繁殖にもつながっているか分からないのであれば、救護よりも生息地の保全に予算を使うべきだ、という考え方が広がっていったんです。

その結果、救護対象を希少種だけに絞るなど、全国的に救護体制が縮小してきました。

一方で、開発や渡り先の環境変化によって、鳥の数は減っています。

日本国内で環境を守っても、渡った先が開発され、住む場所が失われれば、次に日本へ戻ってくる鳥も減っていきます。

以前は数多くいた鳥でも、現在は一羽一羽の重要性が高まっている種があります。

ところが、救護の経験を持つ人や施設は減っている。

希少な鳥が突然運び込まれても、日頃から一般的な鳥の治療やリハビリを経験していなければ、すぐに対応することはできません。

生息地が失われ、救護できる人も減っている。
野生動物にとって、厳しい状況になっていると感じます。


8:その鳥は、本当に助けを必要としているのか
保護する前に知ってほしいこと

ー野鳥の救護活動を知らない方に、まず知ってほしいことはありますか?

吉田さん:一般の方が自己判断で野鳥を保護し、飼育することは避けてほしいです。

野生動物の救護には行政上のルールがあります。鳥獣保護管理法では野鳥の捕獲は原則として禁止されており、救護を目的とする場合も、行政の指示や必要な手続きに従わなければ、違法になる可能性があります。SNSなどで「野鳥を保護しました」という投稿があると、親切心から餌や飼い方を教える方もいますが、まずは行政の指示を仰ぐ必要があります。

巣立ったばかりの雛は、まだうまく飛べず、ふわふわした姿をしていることがあります。

そういう鳥を見ると、「かわいそうだから育ててあげなければ」と思うかもしれません。しかし、親鳥が近くで見守っていて、本来は保護を必要としていない場合も多いんです。

また、カラスなどに襲われている動物を助けることが、カラスから餌を奪うことになる場合もあります。

人の親切心による行動が、必ずしもその個体や生態系のためになるとは限りません。

ー怪我をした鳥を見つけた場合は、どうすればよいのでしょうか?

吉田さん:明らかに怪我をしている場合でも、まず行政の窓口へ連絡し、指示を仰いでください。

ただ、行政による救護体制は縮小傾向にあり、明らかに人為的な事故が原因と思われる場合でも、「そのままにしておいてください」と案内されることがあります。相談しても救護につながらないケースがあることは、現場が抱えている課題の一つです。
本当に救護が必要な個体であれば、救護施設や対応できる獣医師を案内してもらえる場合もあります。

保護する前に、その鳥が本当に救護を必要としているのかを確認することが大切です。

9:救護した鳥が生きていける場所を残す
放鳥’sが見据えるこれから

ー今後、団体として新たに取り組みたいことはありますか?

境さん:救護活動は続けながら、自然環境の保全にもしっかり取り組んでいきたいと思っています。

治療して放すだけでなく、その個体が生きていける環境を残すことも必要です。

吉田さん:開発によって人は快適な生活が送れるようになりましたが、野生動物が生きられる環境にも目を向けてほしいという思いがあります。生態系や生物多様性を守る視点がもっと大切にされるといいなと感じます。これ以上絶滅に向かう種を増やさないためにも、今まさに危機にある生きものたちが回復できるような環境づくりを進めていけたらと思っています。

ー人と野生動物は、どのような関係であるべきだと思いますか?

吉田さん:適度な距離感が大切だと思います。

境さん:犬や猫は、人と近い距離で暮らし、愛情を注ぐことができます。

でも、野生動物は距離が近すぎると、人に慣れたり人へ近づくようになったりする可能性があります。

かわいいからとキツネに餌を与えれば、人へ近づくようになるかもしれません。クマなどでも同じです。

だから、近づいてかわいがるのではなく、距離を保ちながら、生態系全体に目を向ける必要があります。

すべての鳥を守ればいいという単純な話でもありません。鳥の種類によっては、人の生活や漁業に影響を与えることもあります。

人の暮らしも大切にしながら、多様な生物がどのようにつながり、私たちがどのような恩恵を受けているのかを考えてほしいと思います。

野生動物は、自然界で起きていることを人へ伝えるメッセンジャーでもあります。

鳥や魚の大量死を調べると、水質汚染や毒素、感染症など、人の生活にも関わる原因が見つかることがあります。

一羽を救って放すことだけが目的ではありません。

なぜその個体が傷ついたのか、なぜその場所で野生動物が死んでいるのかを調べることで、人間にも返ってくる重要な情報を得られます。

ワンヘルスの観点からも、野生動物にもっと目を向けてほしいと思っています。


10:困った時は、自己判断せず相談してほしい
読者へのメッセージ

ー最後に、読者の皆さまへ伝えたいことをお願いします。

吉田さん:野生動物の救護は、助けるべきか、見守るべきかの線引きが難しい活動です。

一般の方だけで判断するよりも、行政や救護施設などへ相談した方が、その人自身のためにも、動物や生態系のためにもなります。

困ったことがあれば、まず相談してほしいです。

境さん:安易に野生動物を保護すると、病原体などによって、保護した方や家族が危険にさらされる可能性もあります。

私たち自身も、そうしたリスクに注意しながら活動しています。

放鳥’sがすべての答えを持つ専門家だとは考えていません。ただ、専門家や対応できる施設とのつながりがありますので、必要な方へ相談することはできます。

何か困ったことがあれば、遠慮なく相談していただきたいです。

吉田さん:野生動物の救護は、生態系や生物多様性の保全につながるものであるべきだと思います。

同時に、人間の活動が原因で怪我をした動物については、人間の責任として助ける必要があるとも感じています。

境さん:人の責任という部分は、確かにあると思います。

一羽を助けること。
救護された原因を調べること。
その個体が帰れる環境を残すこと。

それらを切り離さずに考えながら、これからも活動を続けていきたいと思います。

 

放鳥’s
HP:https://houchoooooz.jimdofree.com/
Face Book:https://www.facebook.com/releasing.birds/?locale=ja_JP
X(旧Twitter):https://x.com/houchoooooooz

 

ブログに戻る