『たすけたい』気持ちから始まった小さな一歩は、やがて“居場所づくり”へ。保護猫と子どもたちが並んで過ごす日常を、寄付と仕組みで支え続ける——
感情だけに頼らない、やさしくて現実的な動物保護。
今回は、NPO法人フリースクールゆきレオ&保護猫施設ゆきレオ保育園の福本さんに、その活動の背景と信念を伺いました。
1.活動を始めた背景と想い
―活動を始めたきっかけや思いを教えてください。
―福本さん:きっかけは娘の不登校です。学校でのトラブルから対人恐怖症になり、外に出ることが怖くなり、家で過ごす日が増えました。少しでも外に出て何かしてほしくて、ちょうどテレビで動物虐待のニュースを見たときに「家で猫の活動してみる?」と聞いたら、「してみたい」と答えました。そこから他の団体のお手伝いを始めました。
―保護活動から始まったんですね。
―福本さん:はい。最初は譲渡会のお手伝いから、徐々に預かりボランティア、外猫の捕獲、TNR、ミルクの子の世話など、できることを広げていきました。
―ご自宅で活動されているのはなぜですか?
―福本さん:「なんで家なん?」ってよく聞かれます(笑)。でも、譲渡費用を次の子に回す“循環”を作って継続できる活動にしたかったんです。活動を続けるうちに、不登校の子や発達障害・自閉症の子と猫の相性がすごくいいことに気づきました。私自身、動物の専門学校出身でアニマルセラピーにも関心があって。学校に行けない子どもと保護猫をつなぐことで、両方の課題を少しでも解決できたらと思いました。
資金もない中ですぐ始めたかったので、店舗ではなく自宅を改装して活動を始めました。
―当初は何匹くらいだったんですか?
―福本さん:最初は12〜13匹くらいでした。今は31匹(取材時)。5月に6匹、続いて14匹捨てられてきて、15匹は譲渡が決まり、5匹が残っています。春にはまた子猫が入ってきて、合計30匹を超えました。
―かなりの数ですね。
―福本さん:うちは譲渡が進みやすい方だと思います。家族全員で朝から晩まで猫のことばかりやっていて、見学もいつでも受け入れられるので、スムーズに繋げられています。家だからこその強みですね。
2.現在取り組まれている活動内容
―現在の活動内容を教えてください。
―福本さん:子どもと保護猫が一緒に過ごせるフリースクールです。人と動物の共生を目指して活動しています。娘と始めてからこれまでに286匹を譲渡し、TNR(捕獲・不妊手術・元の場所へ戻す活動)も継続しています。
―フリースクールではどんなことを?
―福本さん:学校に行けなくなった子どもたちの「学校以外の居場所」として来てもらい、猫のお世話や捕獲、掃除などを一緒にしています。以前は動物病院の見学や職場体験もさせてもらいました。保護猫に関わることは、ほとんど何でもやっています。

3.保護猫との関わりを通じた子どもたちの変化
―子どもたちにどんな変化がありましたか?
―福本さん:娘は引きこもり気味でしたが、猫をきっかけに外へ出られるようになりました。知らない人の前では話せなくても、猫のことなら話せる。たとえば「この子ってどんな性格?」って聞かれたら、小さな声でも答えられるようになったんです。
他の子でも、全く外に出られなかった子が「行ってみたい」と来てくれるようになって、少しずつ通えるようになった子もいます。慣れてからはみんなと一緒に出かけることもできるようになってきました。
動物の力って、本当にすごいなと思います。
4.“空気”づくりについて
―子どもや猫が自然に過ごせる空間づくりで意識していることは?
―福本さん:「猫と人が幸せに暮らせる住まいを増やすこと」を目標に活動されている「ねこ大家さん」にお願いして、キャットステップやエアコン防護柵など、猫も子どもも自分のペースで過ごせる空間にしています。空気感については、特別なことはしていません。お互いが“ありのまま”でいられる過ごせる空間を大切にしています。猫も子どもも、自分のペースで過ごせる場所。そんな“空気”を大事にしています。
5.印象に残っている保護エピソード
―最近、特に印象に残っている出来事は?
―福本さん:うちのメンバーになってくれた子どもの保護者がいるんです。
その方、小学校の頃の夢が「保護猫施設を持つこと」だったそうで。
そのお子さんが学校に行ったとき、正門のところにうずくまって動かない猫を見つけたんです。
顔も体も大きなケガを負っていて、見るのもつらいほどの状態でした。先生の話では、車じゃなくて下から上への強い力が加わっている――つまり、蹴られたか叩かれた可能性が高いと。
治療費の予想は90万円。正直どうしようと思いましたが、SNSで支援を呼びかけたら全額集まりました。
その子は「うしくん」と名付けて、治療を続けました。
エイズは発症してしまいましたが、無事に回復して、この間正式に譲渡が決まりました。本当に、たくさんの方が「うしくんのために」って寄付してくれて、胸が熱くなりました
6.TNR活動における工夫と地域との関係
―TNRの工夫、地域との関わりは?
―福本さん:TNR活動は、まずその地域の人と会って話すところからなんです。
勝手に捕獲器を置いて捕まえて終わり、ではありません。戻す場所なので、そこの地域で猫がトラブルになっていないかを必ず確認します。
捕獲器を置く場所も、勝手に設置すると本当はダメなんですよ。だから通り道になりそうなお家の方にピンポンして、事情を説明して許可をもらうようにしています。
そうすると、やっぱりその地域での野良猫のトラブルの話が出てくるんです。
「実はこっそりうちの庭で餌をあげている」とか、「隣同士で揉めている」とか。そういう話を聞いて、戻した後も大丈夫かどうかを確認しています。
猫嫌いな人のところにも、やっぱり行くんですよね。
「何してんだよ」みたいに言われることもあります。
でも、手術をして増えないようにしていることや、外の猫の寿命はお家の猫と違ってだいたい5年くらいしかないことを伝えると、「じゃあ仕方ないな」と理解してくれる人が多いです。
それに、うちは子どもも一緒に活動しているし、理事長も一緒にやっているので、年配の方はちっちゃい子にはあまり強く言えないというのも正直あります。
だから、上から言わず、ひたすら下手に出て、仲良くなる感じでやっています。

7.継続的な運営を支える工夫
―活動を続けるために工夫していることは?
―福本さん:やっぱり資金面です。SNS(Instagram)で発信を続けることでファンの方がついてくれて、定期的な支援金や欲しいものリストで物資を送ってもらっています。ご飯やトイレ用品はほぼそれで賄えています。
それと「ネコノート」という猫の推し活サービスにも登録していて、おやつチケットやじゃらしチケットを投げ銭の形で支援してもらいます。最初は月2,000〜5,000円くらいでしたが、今は月3万円ほどに。
あとは保護を“無償”にしないこと。依頼時も譲渡時も必要な費用をいただきます。儲けはありませんが、トントンで回せています。私は掛け持ちで働きながら、保護猫事業+ネコノート+支援金の3本柱で運営しています。
補助金・助成金も申請していますが、採択はなかなか難しい。だからこそ、発信が生命線です。SNSがあるから続けられていると思います。だからこそ、発信を止めるわけにはいきません。
8.アパレルコラボへの期待と可能性
―今回のEager Beaverとのアパレルコラボについて、期待していることは?
―福本さん:新しい挑戦です。自分たちでグッズを作って販売したことはありますが、デザインから販売まで全部任せられるのは本当にありがたい。
保護団体のTシャツやバッグはファンの方が買ってくれますが、それ以外の人には届きにくいんです。今回のコラボを通して、これまで届かなかった人にも、活動を知ってもらえるきっかけになればうれしいです。

9.保護活動に馴染みのない方へ
―保護活動に馴染みのない方へ、伝えたい現状はありますか?
―福本さん:そうですね、本当にいろいろあるんですが…。
犬は狂犬病の関係で愛護センターが引き取ってくれるんですけど、
猫は保護の義務がないので、実際は引き取ってもらえないことが多いんです。
外の猫たちはすごく過酷な環境で生きていて、受け入れ先が足りないっていうのを知ってほしいです。
それから、保護団体のほとんどは実費で活動しています。「行政から委託料が出ている」と思われがちですが、そういう仕組みはありません。
実際、保護の依頼で費用の話をすると「どうしてお金が必要なの?」と驚かれることもあります。そのたびに「補助はありません、全部実費なんです」と説明しています。
こうした現状がもっと知られれば、活動もしやすくなります。
結局、理由はすごくシンプルで――猫がかわいいからやってるんです。
それだけ。でも、その気持ちを少しでも分かってもらえたらうれしいですね。
10.今後の展望と読者へのメッセージ
―今後の展望、読者へのメッセージをお願いします。
―福本さん:保護猫活動だけでなく、人と動物が共に生きられる社会を目指したいです。猫の課題は不登校や福祉など、いろんな領域とつながっているから。連携しながら広げていきたいと思っています。
それと、保護猫と過ごせるフリースクールを全国に広げたい。民家でもできる形です。猫がいるから外に出られる子はたくさんいるのに、今は全国でもほとんど例がありません。実費ではなかなか続けられないのが現実ですが、お金が循環する仕組みを作って、少しずつでも広げていきたいです。
NPO法人フリースクールゆきレオ&保護猫施設ゆきレオ保育園
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