「保護犬を迎えることは素晴らしい」
近年、メディアの影響もあり、そんなポジティブなイメージが世間に広がりつつあります。
しかし、その背景にある「難しさ」や「現実」に、目を背けずに立ち向かっている場所があります。
愛媛県にある動物保護団体「Wish Me Luck(ウィッシュ・ミー・ラック)」
ここでは、ただ犬を保護して譲渡するだけではありません。
成犬や野犬出身の中型雑種に「トレーニング」を施すことで、二度と手放されないための譲渡を行い、さらには子どもたちへの「命の授業」にも力を入れています。
「かわいそう」という感情だけで犬を救うのではなく、犬の習性を理解し、犬を「犬らしく生かす」こと。
代表の森田さんに、Wish Me Luckの原点と、保護活動へのリアルな向き合い方を聞きました。
1. 地元・愛媛から変える。殺処分ワーストの現状に挑む決意
ーまずは、Wish Me Luckを立ち上げた原点や経緯について教えてください。
森田さん: 私が元々愛媛県の出身なのですが、四国は昔から犬の殺処分数が全国でもワーストクラスの地域だということをずっと知っていました。自分が活動を始めるにあたって「四国のどこでやるか」と考えた時、やはりまずは地元である愛媛県から殺処分数を減らすことに貢献したいという思いが強くありました。それが立ち上げの一番の原点ですね。
ー 地元の現状を変えたいという思いがあったのですね。設立されたのはお若い頃だったと伺っていますが。
森田さん: はい。動物の専門学校に2年間通った後、関西のほうで私たちと同じような保護活動をしている法人に就職しました。そこで1年半ほど働いて経験を積み、退職して愛媛県に戻ってきて、このWish Me Luckを立ち上げました。
2. 救済・教育・啓発。活動を支える「3つの柱」とプロのサポート
ー現在は、具体的にどのような活動を中心に行われているのでしょうか?
森田さん: 大きく分けて3つの柱があります。
1つ目は、保護犬を保護して新しい家族へ譲渡する「救済活動」。
2つ目は、保護犬たちを連れて幼稚園や保育園、小学校から高校までの教育現場を訪問し、命の授業をさせていただく「教育活動」。
そして3つ目が、私たちの活動や保護犬について広く知ってもらうための「啓発活動」です。
啓発活動は週末に施設で待っているだけでなく、色々な地方へ足を運んでいます。また、一般の飼い主さん向けに、しつけ教室やお預かりのトレーニングといったサービス事業も行っています。これを通して、現在ワンちゃんを飼っているご家庭の「生活の質」を向上させ、次へと手放すことがないようにサポートさせてもらっています。
ーしつけ教室では、どのようなお悩みを解決されているのですか?
森田さん: 本当に、飼い主さんが日常で困っている内容に対してアプローチしていく形です。噛み癖がある、散歩で引っ張る、他の犬に吠えてしまう、仲良くできない……中には「そもそもリードがつけられない」という方もいらっしゃいます。そういった飼い主さんと愛犬のリアルな悩みに対して、グループレッスンではなく、1対1のプライベートレッスンで対応しています。
ーしつけ教室に来られるのは、Wish Me Luckから譲渡された犬たちですか?
森田さん: いえ、うちの施設から譲渡した子は逆にいません。私たちは「最低限のトレーニングをしてから譲渡する」という方針なので、譲渡後にしつけ教室に通わなければならない状況には基本的にならないんです。
教室に来られるお客様の割合で言うと、7割が他団体や愛護センターから元保護犬を迎えた方。残りの3割が、ペットショップやブリーダーさんからお迎えしたワンちゃんです。
3. 「二度と手放させない」——トレーニングがもたらす安心と責任
ーなぜWish Me Luckのワンちゃんは、しつけで困ることがないのでしょうか?「ただ保護して譲渡するだけではない」というお考えの理由を教えてください。
森田さん: 私たちが「トレーニング」というものを徹底して行っているからです。
というのも、保護犬の中には、過去に2回、3回と捨てられてしまった経験を持つ子が少なくありません。うちの歴代の保護犬を見てもらえればわかるのですが、ほとんどが「中型以上の雑種」で、純血種はまずいません。
ー中型の雑種が、成犬になってから保護される背景には何があるのでしょうか?
森田さん: 迷子犬でも野犬でもないとしたら、それは「飼育放棄」です。愛媛県は肌感覚としても飼育放棄がすごく多い印象があります。中型の雑種が飼育放棄されて愛護センターにいたり、私たちのところに「手放したい」と連絡が来たりすることが非常に多いんです。
せっかく保護犬を迎えてもらったのに、また保護犬になってしまう。それがすごく大きな課題だと感じました。
特に野犬出身や雑種の子は、扱うのが難しい面があります。犬を飼ったことがない人や、野犬を飼ったことがない人に「はい、どうぞ」とそのまま譲渡しても、結局扱いきれずに手放されてしまうことが多い。
本当は飼い主さん自身がしつけをするのが理想ですが、それが難しいことも私たちは理解しています。だからこそ、譲渡する前に私たちが最低限のトレーニングを行い、「人と生活するルール」を教えてから譲渡する。そうすることで、保護犬を迎えるハードルも下がりますし、何より「二度と手放されない(出戻りがない)」という結果に繋がるため、トレーニングを最重要視しています。
4. 子どもたちの心に響く「衝撃」。教育活動こそが未来の殺処分を防ぐ鍵
ー教育現場への訪問も熱心にされていますが、子どもたちへの教育活動を続けている理由は何でしょうか。
森田さん: 動物や命に対する価値観というのは、幼少期の多感な時期に様々な経験を通して身についていくものだと思うからです。もちろん大人の方への啓発も大事ですが、子どもたちが多感な時期に「命」に触れること、そしてそれが「保護犬である」という事実は、彼らにとってある意味で衝撃的な体験になります。
「こういう境遇の子たちがいるんだ」と知ることもそうですし、保護犬である前に、彼らにも一つの命があり、気持ちがあるということを知ってもらう。それが最終的に命を大切にする心に繋がり、結果として将来の殺処分や捨てられる犬を減らすことに直結すると思っています。
私たちが大人に直接「こうあるべきです」と伝えるよりも、子どもたちが学校で学んできたことを「お母さん、今日こういう勉強をしたよ」と家庭で話してくれる方が、大人の方にもスッと意見が入りやすく、広まりやすいと感じています。だからこそ、教育活動が殺処分ゼロへ繋がる重要なステップだと信じて続けています。
ー具体的にはどのような授業をされているのですか?
森田さん: 現場のニーズに合わせて打ち合わせをして決めていますが、基本的には「なぜ保護犬がいるのか」という現状をお話しします。そして、「犬はこういう生き物だから、人と暮らすためにはトレーニングが必要なんだよ」ということを、実際の保護犬を使って実践して見せます。代表の子どもにしつけの練習やブラッシングを体験してもらい、最後はみんなでふれあう、という流れが多いですね。
幼稚園や保育園など年齢が低い場合は、難しいお話よりもフリーでの「ふれあい」を中心にします。触りながら「なんでお口が開いてるの?」といった純粋な疑問をもらうので、会話を通して生き物について伝えていきます。
5. 「かわいそう」が「お利口」に変わる瞬間。ふれあいで解ける“心の壁”
ーそういった教育現場やイベントで、特に印象に残っている出来事や反応はありますか?
森田さん: 特定の1つの出来事というより、毎回実感して嬉しく思うことがあります。
世間一般では、保護犬に対して「かわいそう」「汚い」「臭い」「噛むかもしれない」といったマイナスなイメージがどうしても先行しがちです。でも、実際にうちの犬たちと会うと、「毛艶が良くて綺麗だね」「全然臭くないね」「すごくお利口だね!」と、プラスのイメージにガラッと変わってくださるんです。
例えば、体育館で100人くらいの子どもたちの前で1〜2時間ほどの授業をする間、保護犬たちはクレート(ケージ)の中でお座りや伏せをして、すごくお利口に待っていられるんです。しかもそれは特定の1頭だけができるわけではなく、譲渡されてメンバーが入れ替わっても、うちの犬ならみんな同じように待つことができます。
どんな子でもそこまでのトレーニングができているという姿を見て、好印象を持ってもらえること。これが、啓発や教育活動をしていて本当に意味があると感じる瞬間です。
ー子どもたちの反応はどうですか?
森田さん: 年齢によって全く違いますね。年齢が低い子たちは、そもそも家庭で犬を飼っている割合が少ない(子育て中で犬まで手が回らないご家庭が多い)ので、動物に触れたこと自体がない子が多いんです。最初は「キャー!」と騒いだり、逆に全く触れなかったりします。でも1時間ほど経つと、犬たちが吠えたり噛んだりしないことがわかり、お友達が触っているのを見て「ちょっと触ってみようかな」と興味を持ち始めます。帰り際には触れるようになっていることが多いですね。
一方で年齢が上がると、テレビなどで保護犬の知識をある程度持っているので、「殺処分ってどうやってするの?」など、授業内容をさらに深掘りするような興味深い質問をたくさんしてくれます。
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6. 「いつか自然に慣れる」という幻想。野犬に必要なのは正しい導き
ー 啓発活動をされる中で、世間の人が抱いている「誤解」を感じることはありますか?
森田さん: 先ほどお話しした「マイナスなイメージ」を持っている方が多い一方で、実は逆の「良いイメージを持ちすぎている」という誤解も非常に多いんです。
最近はテレビやYouTubeなどで保護犬の特集がよく組まれていますよね。「野犬をお迎えして、半年や1年経ってこんなに慣れました!」という感動的な内容です。それ自体は素晴らしいのですが、あれを過信しすぎて、「一緒にいれば、いつか自然に慣れるだろう」と思い込んでしまう方がすごく多いんです。
でも現実は違います。何のアクションも起こさずに、ただ一緒にいるだけで勝手に慣れるということはありません。特に野犬などの難しい子は、しっかりトレーニングをしないと人には慣れていきません。「子犬から飼えば」「1年経てば」とそのまま過ごし、結果的に3〜4年経っても「リードも首輪もつけられない」「触ることもできない」「ワクチンも行けず、爪も切れない、散歩にも行けない」という状態でSOSを出してくる飼い主さんが後を絶たないんです。
ーそれは犬にとっても人にとっても苦しいですね。
森田さん: ええ。だからこそ、「野犬を迎えたら、人に慣れるまでの『トレーニング』が絶対に必要であり、慣れるのはその後についてくる結果だ」という正しい認識を持ってほしいんです。せっかくお迎えしてくれたのに、お互いが悲しい思いをするような悲劇を減らしたいと強く思っています。
7. おしゃれよりも「命」を守る。脱走事故をゼロにするための道具選び
ー抜けにくい「プレミアカラー(首輪)」やハーネスといった道具の重要性も啓発されていますが、その背景には何があるのでしょうか。
森田さん: まず大前提として、保護犬(特に雑種)は、ちょっとした音にびっくりしてパニックになり、暴れて首輪やハーネスが抜けて脱走してしまう事故が、日本中で毎日起きています。
ハーネスはその子の体型や性格によって合う・合わないがはっきり出るので全員にお勧めするわけではないのですが、プレミアカラーに関しては、首輪抜けがほとんど起きない構造になっています。
ーデザイン性よりも、まずは命を守るための機能性ですね。
森田さん: おっしゃる通りです。「可愛いデザインのものをつけたい」という気持ちも分かりますが、脱走して捕まえられず、そのまま山に入って野犬に戻ってしまったり、車や電車に轢かれて亡くなって見つかったりする子が非常に多いという現実があります。
だからこそ、日頃からの家の脱走防止対策はもちろん、首輪の種類についての正しい知識を持ち、少なくともお家に迎えてからの1〜2年、その子が落ち着いて扱えるようになるまでは、そういった抜けにくい道具に頼ってほしい。1番は「脱走させないため」に、こういう商品があるということを啓発しています。ペットショップではあまり売られておらず、ネットでしか買えないことが多いので、知っていただくことが大事なんです。
8. 擬人化ではなく、犬らしく。24時間365日の観察が生む「個の魅力」
ー 森田さんがWish Me Luckとして、ご自身の活動を誇りに思う瞬間や、団体の最大の魅力はどんなところだと感じていますか?
森田さん: 私たちが引き取るのは「中型以上の雑種の成犬」が最低条件であることが多いです。一般的には譲渡が難しいとされる「成犬」であっても、しっかりトレーニングをすれば、こんなにも人と一緒に穏やかに生活できるようになるんだ、ということを証明できていることですね。
そして、ただ「保護犬」という一括りではなく、「〇〇ちゃん」というその子個人の魅力をしっかりと引き出して、皆さんに発信できていること。ふれあいに来てくださる方の反応を見ていると、個々の魅力を引き出すことに関しては、うちはすごく特化しているんじゃないかと自負しています。
ー 個々の魅力を引き出すために、何か特別な工夫をされているのですか?
森田さん: 私たちは24時間365日、ずっと犬たちと一緒に生活しています。トレーナーであっても、お仕事の時間以外も含めて四六時中、これだけ多くの犬と常に一緒にいる環境は珍しいと思います。離れたくても離れられない環境でずっと世話をしているので、自然と犬たちへの「観察力」は高まります。
そして一番のこだわりは、犬を「犬らしく生かす」ことに魅力を感じ、徹底していることです。
ー「犬らしく生かす」ですか。
森田さん: はい。今は犬が家族化しているので、どうしても「擬人化」して人間のように扱ってしまう傾向があります。でも、彼らは人間ではなく「犬」なんです。
だから、何か選択をする時は常に「それは犬らしいか、犬らしくないか」を基準にしています。犬の習性や本能をしっかりと満たし、犬らしく生きられる環境を用意してあげる。そうすることで初めて、その子本来の振る舞いや、その子らしい魅力的な行動を見せてくれるようになるんです。
9. 匂いも声も、肌で感じてほしい。施設開放に込めた「イメージ改革」の願い
ー月に1回、施設開放日やふれあい会を開催されていますが、そこにはどのような想いが込められているのでしょうか。
森田さん: 一般的な「譲渡会」というと、「どの子を希望されますか?」という前提から入るため、飼う予定が今すぐない人にとっては行きづらい場所になってしまっています。
私たちは目先の譲渡だけでなく、もっと遠い未来を見据えて活動しています。まずは「保護犬に対するイメージ改革」をすることが重要だと考えているんです。
だから、「譲渡会」ではなくあえて「ふれあい会」と名乗り、「うちの保護犬たちの社会化の練習(トレーニング)になるので、ご協力をお願いします」というスタンスをとっています。その方が一般の方も圧倒的に足を運びやすいですし、実際に犬たちの成長を見てもらうことができます。
ーあえてご自身の施設で開催している理由もあるのですか?
森田さん: 犬の施設というと、普通は「ワンワン!」と騒がしいイメージがあると思います。でもうちの施設は、人が入ってきても犬たちが吠えません。日頃から無駄吠えをさせないトレーニングをしているからです。
また、「匂いがしない」「清潔である」ということも、言葉で見聞きするだけでは伝わりません。実際に足を運んで、場所を見て、鼻で匂いを感じて「これだけたくさん犬がいるのに、全然吠えないし、臭くない!」ということを肌感覚で分かってもらいたい。そのために施設を開放しています。
10. 「難しさ」の先にある笑顔。保護犬と家族になる唯一無二の喜び
ー 最後に、この記事を通して動物保護活動やWish Me Luckを初めて知る方に向けて、メッセージをお願いします。
森田さん: 世間では「保護犬を迎えることは素晴らしい」というオープンな見方が広がっていますが、実際のところ「保護犬はすごく難しい」という現実があります。
様々なバックグラウンドや過酷な背景を背負っている子が多いので、一筋縄ではいかないこともたくさんある、ということは皆さんに知ってほしいです。
でも、それでも、彼らを幸せにすることには他にはない魅力があります。
難しい過去を持った子たちが、うちの施設でみんな笑って過ごせるようになっている。その笑顔の裏にある彼らの過去の時間と、これから共に過ごす時間を一緒に紡いでいく面白さや充実感は、間違いなく「保護犬でしか味わえないもの」です。
保護犬は確かに難しいです。でも、共に過ごして得られるものは、どこにも負けないくらいの魅力があります。ぜひ、その難しさも含めて覚悟を持ち、保護犬を家族に迎えることを検討してくださる方が、少しでも増えたら嬉しいなと思っています。
