「犬とともに社会に貢献する」日本レスキュー協会30年の歩みと知られざる活動

「犬とともに社会に貢献する」日本レスキュー協会30年の歩みと知られざる活動

命を探す鼻と、心を支えるまなざし——
ひとつの大震災から生まれた小さな決意は、
いま「災害救助犬」「セラピードッグ」「動物福祉」という3つの柱となって、
人と犬のいのちを支え続けています。

今回は、認定NPO法人 日本レスキュー協会の副理事長の松﨑さんに、
活動の原点から、現場での学び、そして今回のアパレルコラボへの想いまでを伺いました。

1.活動の原点——阪神・淡路大震災が教えてくれた必要性

日本レスキュー協会として、災害救助犬・セラピードッグの育成や動物福祉に取り組むようになった背景を教えてください。

松﨑さん:
私たちの原点は、1995年の阪神・淡路大震災です。6434名もの命が失われたこの災害をきっかけに、日本レスキュー協会が誕生しました。

当時、海外からも応援にきてくれました。救助隊だけでなく災害救助犬も救助活動に駆けつけてくれました。日本ではまだ存在が十分に知られておらず、

  • 検疫に時間がかかる
  • 受け入れ窓口が不明確
  • 連携体制が整っていない

といった理由から、11秒を争う現場に入るまでに大きなタイムロスが生じていました。各国で訓練レベルも異なり、犬の能力を最大限に生かしきれなかった面もあります。

「日本に専門の災害救助犬団体があれば、約500名の命が救えた可能性がある」
──
そう指摘されたことが大きな転機になりました。災害大国である日本に災害救助犬を専門的に育成し、迅速に派遣できる組織が必要だ。その思いから、199591日(防災の日)に日本レスキュー協会が発足しました。

セラピードッグや動物福祉の取り組みはどのように始まったのですか?

松﨑さん:災害救助犬の活動を続ける中で、神戸の震災遺児が集まるイベントに参加した際、子どもたちが災害救助犬と触れ合った瞬間に表情が緩み、笑顔を見せてくれたことが大きなきっかけでした。
保護者の方からも「最近、この子のこんな笑顔は見ていませんでした」と驚きの声が上がり、犬には心を癒す力があると強く感じました。

そこからセラピードッグの育成と施設訪問を本格化させると同時に、日本でも殺処分されている犬達を一頭でも多く助けたいという思いから、保護犬の受け入れ・訓練・里親につなぐ活動も始まりました。


2.子犬のころから相棒とともに——災害救助犬の訓練

災害救助犬の育成は、とても専門的なイメージがあります。訓練ではどのようなことを行うのでしょうか?

松﨑さん:災害救助犬は子犬のころから「ハンドラー」と呼ばれる担当者とペアを組みます。訓練も健康管理も共に行う、いわば相棒のような存在です。まずは徹底した信頼関係づくりからスタートします。

基本となるのが「服従訓練」です。脚側行進と呼ばれる、人の左側について歩くトレーニングを、リードの有無にかかわらず行います。また、災害現場では声が届かない場面も多いため、身振りだけで「右」「左」を伝える遠隔訓練も重要です。

そのほか、

  • 不安定な足場での訓練
  • 高所訓練
  • 梯子を渡る訓練
  • 障害物を想定した訓練

など、現場を想定したトレーニングを重ねていきます。

中心となるのは「捜索訓練」です。瓦礫や倒壊建物を再現した訓練場で要救助者役が隠れ、犬が匂いをたどって発見し、吠えて知らせます。かくれんぼのようですが、人の匂いを正確にとらえ、自然に発見行動へつなげられるよう徹底した訓練をします。

訓練の中で「向いている犬・向いていない犬」の見極めはありますか?

松﨑さん:あります。実際に災害救助犬として現場で活躍できるレベルに到達する犬は多くはなく、途中でリタイアする子もいます。


3.現場で感じる犬のすごさ

ー災害現場で災害救助犬が活躍した際、「犬ってすごい」と感じた場面はありますか?

松﨑さん:近年の災害現場では、温度を感知する機器やドローンも使われていますが、それでも「犬にしかできないこと」があります。代表的なのが嗅覚です。甲子園球場ほどの広さを想像してみてください。人や機械だけで隅々まで調べると時間がかかりますが、災害救助犬なら風下から匂いを頼りに「人がいる可能性の高い場所」を素早く絞り込んでくれます。人命救助では“11が命を左右します。その中で、犬の嗅覚による特定能力はどんな機械にも代えられません。

犬はどんな匂いを手がかりにしているのでしょうか?

松﨑さん:
人間特有の匂い―汗や呼気(息)です。子犬のころから人に隠れてもらう訓練を繰り返し、匂いをたどって「ここに人がいる」と知らせる行動を覚えていきます。大人でも子どもでも、人が発するさまざまな匂いを総合し、要救助者の居場所を判断してくれます。


4.病院・学校・被災地へ——セラピードッグが運ぶ心のケア

セラピードッグはどんな場所で活動していますか?

松﨑さん:
セラピードッグは、病院へ週1回の訪問をはじめ、福祉施設、学校、図書館、高齢者施設など、さまざまな場所で活動しています。災害後には被災地や避難所にも向かい、東日本大震災、熊本地震、能登半島地震など全国で心のケアに取り組んでいます。

5.「もう一度、人を信じられるように」——保護犬のケアと譲渡までのステップ


 ー保護犬を受け入れてから新しい飼い主へつなぐまでに、どのようなケアやステップを踏んでおられますか?

松﨑さん:当協会に来る保護犬は処分される前に引きとった子達もいます。まず大切なのは「もう一度、人を信じられるようになること」。捨てられた経験から人に不安や警戒心を抱える子も多いため、安心できる環境でゆっくり信頼関係を取り戻すところから始めます。そのうえで、新しい飼い主さんと暮らすためのトレーニングを行います。譲渡の際には面談を重ね、「このご家庭なら幸せになれる」と判断できる方に譲渡しております。


6.「保護犬からセラピードッグへ」——大きく変化した一頭の犬

保護された犬の中で、印象に残っているケースはありますか?

松﨑さん:過去に保護した犬の中に、訓練を重ねるうち「セラピードッグとして活躍しているワンちゃんもいます。」現在も現役で活動しているセラピードッグもいます。

7.伊丹のトレーニングセンターと、60以上の自治体との連携——協会の強み

日本レスキュー協会ならではの強みはどこにあるのでしょうか?

松﨑さん:
私たちには「犬と共に社会に貢献する」という理念があり、阪神・淡路大震災をきっかけに活動を始めてから、災害救助犬の歴史は30年になります。長年の経験と蓄積されたノウハウは大きな強みです。

本部の伊丹には、瓦礫・座屈倒壊・高所・障害物など、災害現場を想定した本格的な訓練施設が整っています。今後は佐賀県支部でもこのような訓練施設を作っていきたいです。

さらに、これまでの実績から60以上の自治体と協定を締結しています。東京消防庁、神戸市消防局、兵庫県、大阪府、京都府などと連携し、災害時には
・災害救助犬の派遣
・セラピードッグの派遣
・ペット飼養世帯様への支援など
を行える体制を築いています。
専門的な訓練環境と全国に広がる自治体ネットワーク。この二つの軸こそが、日本レスキュー協会の大きな強みです。


8.現場での学びと、犬たちに励まされる瞬間/災害救助犬の引退後

活動の中で、印象的な学びや犬に励まされた瞬間はありますか?

松﨑さん:
ハンドラーには皆、それぞれ犬に励まされた経験があります。子犬のころからパートナーとして訓練を続けるため、愛着も信頼関係も深まり、その絆は他の人にはなかなか伝わらないほど強いものです。私自身もハンドラーの経験があり、犬が一生懸命に取り組む姿を見るたびに「自分ももっと頑張らないと」と励まされてきました。お互いに高め合いながら成長する関係だと感じています。

団体としての学びは、災害現場やセラピードッグの訪問、避難所での支援など、現場に出るたびに得られます。そこで見えた課題や気づきを持ち帰り、今後の減災・防災にどう生かすかを常に考えてきました。活動を通して「学び続けている」と感じています。

災害救助犬の引退後について教えてください。

松﨑さん:明確に「8歳で引退」と決まっているわけではありませんが、おおよそ8歳前後が目安です。性格や体調により前後することもあります。引退後は、長年ともに活動してきたハンドラーが家族として迎えるケースもあります。

9.「知ってもらうこと」が減災につながる——アパレルコラボで届けたい現状

今回のアパレルコラボを通じて、どんな現状や想いを届けたいですか?

松﨑さん:
災害救助犬やセラピードッグ、動物福祉の活動は、大きな災害が起きたときには報道されますが、日常ではまだ十分に知られていません。そこに大きな課題を感じています。

また、こうした活動は国から大きな支援があるわけではなく、ほとんどが皆さまのご寄付やご支援によって成り立っています。だからこそ今回のコラボをきっかけに、

  • 団体の存在
  • 災害救助犬の役割
  • セラピードッグの活動
  • 動物福祉活動の必要性

を知っていただけたら嬉しく思います。

ペットと暮らす方にとっては、「災害が起きたときにどう行動するか」「同行避難・同伴避難の準備はできているか」を考えるきっかけにもなるはずです。知ることが一人ひとりの減災につながります。今回のコラボが、その最初の一歩になることを願っています。


10.寄付は「育成費・医療費・活動費」に——読者へのメッセージ

このコラボの寄付はどのような活動を支えるのでしょうか?

松﨑さん:今回の寄付は、現在協会に在籍している災害救助犬・セラピードッグ・保護犬たちの「育成費」として活用します。具体的には、フード代やケア用品、訓練用品、ワクチンなどの予防医療費、病気や怪我の治療費といった日常の維持費に充てられます。

さらに、災害救助犬やセラピードッグを派遣費用に活用されます。育成費・医療費・活動費は、犬たちが現場で力を発揮するために欠かせないものです。皆さまからのご支援は、犬たちの日常と訓練を支えるだけでなく、その先にいる要救助者や、心のケアを必要とする方々へ確実に届いていきます。

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